一 |
原価計算の目的
原価計算には、各種の異なる目的が与えられるが、主たる目的は、次のとおりである。
(一) |
企業の出資者、債権者、経営者等のために、過去の一定期間における損益ならびに期末における財政状態を財務諸表に表示するために必要な真実の原価を集計すること。
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(二) |
価格計算に必要な原価資料を提供すること。
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(三) |
経営管理者の各階層に対して、原価管理に必要な原価資料を提供すること。ここに原価管理とは、原価の標準を設定してこれを指示し、原価の実際の発生額を計算記録し、これを標準と比較して、その差異の原因を分析し、これに関する資料を経営管理者に報告し、原価能率を増進する措置を講ずることをいう。
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(四) |
予算の編成ならびに予算統制のために必要な原価資料を提供すること。ここに予算とは、予算期間における企業の各業務分野の具体的な計画を貨幣的に表示し、これを総合編成したものをいい、予算期間における企業の利益目標を指示し、各業務分野の諸活動を調整し、企業全般にわたる総合的管理の要具となるものである。予算は、業務執行に関する総合的な期間計画であるが、予算編成の過程は、たとえば製品組合せの決定、部品を自製するか外注するかの決定等個々の選択的事項に関する意思決定を含むことは、いうまでもない。
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(五) |
経営の基本計画を設定するに当たり、これに必要な原価情報を提供すること。ここに基本計画とは、経済の動態的変化に適応して、経営の給付目的たる製品、経営立地、生産設備等経営構造に関する基本的事項について、経営意思を決定し、経営構造を合理的に組成することをいい、随時的に行なわれる決定である。
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二 |
原価計算制度
この基準において原価計算とは、制度としての原価計算をいう。原価計算制度は、財務諸表の作成、原価管理、予算統制等の異なる目的が、重点の相違はあるが相ともに達成されるべき一定の計算秩序である。かかるものとしての原価計算制度は、財務会計機構のらち外において随時断片的に行なわれる原価の統計的、技術的計算ないし調査ではなくて、財務会計機構と有機的に結びつき常時継続的に行なわれる計算体系である。原価計算制度は、この意味で原価会計にほかならない。
原価計算制度において計算される原価の種類およびこれと財務会計機構との結びつきは、単一でないが、しかし原価計算制度を大別して実際原価計算制度と標準原価計算制度とに分類することができる。
実際原価計算制度は、製品の実際原価を計算し、これを財務会計の主要帳簿に組み入れ、製品原価の計算と財務会計とが、実際原価をもって有機的に結合する原価計算制度である。原価管理上必要ある場合には、実際原価計算制度においても必要な原価の標準を勘定組織のわく外において設定し、これと実際との差異を分析し、報告することがある。
標準原価計算制度は、製品の標準原価を計算し、これを財務会計の主要帳簿に組み入れ、製品原価の計算と財務会計とが、標準原価をもって有機的に結合する原価計算制度である。標準原価計算制度は、必要な計算段階において実際原価を計算し、これと標準との差異を分析し、報告する計算体系である。
企業が、この基準にのっとって、原価計算を実施するに当たっては、上述の意味における実際原価計算制度または標準原価計算制度のいずれかを、当該企業が原価計算を行なう目的の重点、その他企業の個々の条件に応じて適用するものとする。
広い意味での原価の計算には、原価計算制度以外に、経営の基本計画および予算編成における選択的事項の決定に必要な特殊の原価たとえば差額原価、機会原価、付加原価等を、随時に統計的、技術的に調査測定することも含まれる。しかしかかる特殊原価調査は、制度としての原価計算の範囲外に属するものとして、この基準には含めない。
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三 |
原価の本質
原価計算制度において、原価とは、経営における一定の給付にかかわらせて、把握された財貨又は用役(以下これを「財貨」という。)の消費を、貨幣価値的に表したものである。
(一) |
原価は、経済価値の消費である。経営の活動は、一定の財貨を生産し販売することを目的とし、一定の財貨を作り出すために、必要な財貨すなわち経済価値を消費する過程である。原価とは、かかる経営過程における価値の消費を意味する。
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(二) |
原価は、経営において作り出された一定の給付に転嫁される価値であり、その給付にかかわらせて、把握されたものである。ここに給付とは、経営が作り出す財貨をいい、それは経営の最終給付のみでなく、中間的給付をも意味する。
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(三) |
原価は、経営目的に関連したものである。経営の目的は、一定の財貨を生産し販売することにあり、経営過程は、このための価値の消費と生成の過程である。原価は、かかる財貨の生産、販売に関して消費された経済価値であり、経営目的に関連しない価値の消費を含まない。財務活動は、財貨の生成および消費の過程たる経営過程以外の、資本の調達、返還、利益処分等の活動であり、したがってこれに関する費用たるいわゆる財務費用は、原則として原価を構成しない。
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(四) |
原価は、正常的なものである。原価は、正常な状態のもとにおける経営活動を前提として、把握された価値の消費であり、異常な状態を原因とする価値の減少を含まない。
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四 |
原価の諸概念
原価計算制度においては、原価の本質的規定にしたがい、さらに各種の目的に規定されて、具体的には、次のような諸種の原価概念が生ずる。
(一) |
実際原価と標準原価
原価は、その消費量および価格の算定基準を異にするにしたがって、実際原価と標準原価とに区別される。
1 |
実際原価とは、財貨の実際消費量をもって計算した原価をいう。ただし、その実際消費量は、経営の正常な状態を前提とするものであり、したがって、異常な状態を原因とする異常な消費量は、実際原価の計算においてもこれを実際消費量と解さないものとする。
実際原価は、厳密には実際の取得価格をもって計算した原価の実際発生額であるが、原価を予定価格等をもって計算しても、消費量を実際によって計算する限り、それは実際原価の計算である。ここに予定価格とは、将来の一定期間における実際の取得価格を予想することによって定めた価格をいう。
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2 |
標準原価とは、財貨の消費量を科学的、統計的調査に基づいて能率の尺度となるように予定し、かつ、予定価格又は正常価格をもって計算した原価をいう。この場合、能率の尺度としての標準とはその標準が適用される期間において達成されるべき原価の目標を意味する。
標準原価計算制度において用いられる標準原価は、現実的標準原価又は正常原価である。
現実的標準原価とは、良好な能率のもとにおいて、その達成が期待されうる標準原価をいい、通常生ずると認められる程度の減損、仕損、遊休時間等の余裕率を含む原価であり、かつ、比較的短期における予定操業度および予定価格を前提として決定され、これら諸条件の変化に伴い、しばしば改訂される標準原価である。現実的標準原価は、原価管理に最も適するのみでなく、たな卸資産価額の算定および予算の編成のためにも用いられる。
正常原価とは、経営における異常な状態を排除し、経営活動に関する比較的長期にわたる過去の実際数値を統計的に平準化し、これに将来のすう勢を加味した正常能率、正常操業度および正常価格に基づいて決定される原価をいう。正常価格は、経済状態の安定している場合に、たな卸資産価額の算定のために最も適するのみでなく、原価管理のための標準としても用いられる。
標準原価として、実務上予定原価が意味される場合がある。予定原価とは、将来における財貨の予定消費量と予定価格とをもって計算した原価をいう。予定原価は、予算の編成に適するのみでなく、原価管理およびたな卸資産価額の算定のためにも用いられる。
原価管理のために時として理想標準原価が用いられることがあるが、かかる標準原価は、この基準にいう制度としての標準原価ではない。理想標準原価とは、技術的に達成可能な最大操業度のもとにおいて、最高能率を表わす最低の原価をいい、財貨の消費における減損、仕損、遊休時間等に対する余裕率を許容しない理想的水準における標準原価である。
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(二) |
製品原価と期間原価
原価は、財務諸表上収益との対応関係に基づいて、製品原価と期間原価に区別される。製品原価とは、一定単位の製品に集計された原価をいい、期間原価とは、一定期間における発生額を、当期の収益に直接対応させて、把握した原価をいう。
製品原価と期間原価との範囲の区別は相対的であるが、通常、売上品およびたな卸資産の価額を構成する全部の製造原価を製品原価とし、販売費および一般管理費は、これを期間原価とする。
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(三) |
全部原価と部分原価
原価は、集計される原価の範囲によって、全部原価と部分原価に区別される。
全部原価とは、一定の給付に対して生ずる全部の製造原価又はこれに販売費および一般管理費を加えて集計したものをいい、部分原価とは、そのうち一部分のみを集計したものをいう。
部分原価は、計算目的によって各種のものを計算することができるが、最も重要な部分原価は、変動直接費および変動間接費のみを集計した直接原価(変動原価)である。
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五 |
非原価項目
非原価項目とは、原価計算制度において、原価に算入しない項目をいい、おおむね次のような項目である。
(一) |
経営目的に関連しない価値の減少、たとえば
1 |
次の資産に関する減価償却費、管理費、租税等の費用
(1) |
投資資産たる不動産、有価証券、貸付金等 |
(2) |
未稼働の固定資産 |
(3) |
長期にわたり休止している設備 |
(4) |
その他の経営目的に関連しない資産
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2 |
寄付金であって経営目的に関連しない支出
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3 |
支払利息、割引料、社債発行割引料償却、社債発行費償却、株式発行費償却、設立費償却、開業費償却、支払保証料等の財務費用
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4 |
有価証券の評価損および売却損
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(二) |
異常な状態を原因とする価値の減少、たとえば
1 |
異常な仕損、減損、たな卸減耗等 |
2 |
火災、震災、風水害、盗難、争議等の偶発的事故による損失 |
3 |
予期し得ない陳腐化等によって固定資産に著しい減価を生じた場合の臨時償却費 |
4 |
延滞償金、違約金、罰課金、損害賠償金 |
5 |
偶発債務損失 |
6 |
訴訟費 |
7 |
臨時多額の退職手当 |
8 |
固定資産売却損および除却損 |
9 |
異常な貸倒損失
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(三) |
税法上とくに認められている損金算入項目、たとえば
1 |
価格変動準備金繰入額 |
2 |
租税特別措置法による償却額のうち通常の償却範囲額を超える額
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(四) |
その他の利益剰余金に課する項目、たとえば
1 |
法人税、所得税、都道府県民税、市町村民税 |
2 |
配当金 |
3 |
役員賞与金 |
4 |
任意積立金繰入額 |
5 |
建設利息償却
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六 |
原価計算の一般的基準
原価計算制度においては、次の一般的基準にしたがって原価を計算する。
(一) |
財務諸表の作成に役立つために、
1 |
原価計算は、原価を一定の給付にかかわらせて集計し、製品原価および期間原価を計算する。すなわち、原価計算は、原則として
(1) |
すべての製造原価要素を製品に集計し、損益計算書上売上品の製造原価を売上高に対応させ、貸借対照表上仕掛品、半製品、製品等の製造原価をたな卸資産として計上することを可能にさせ、
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(2) |
また、販売費および一般管理費を計算し、これを損益計算書上期間原価として当該期間の売上高に対応させる。
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2 |
原価の数値は、財務会計の原始記録、信頼しうる統計資料等によって、その信ぴょう性が確保されるものでなければならない。このために原価計算は、原則として実際原価を計算する。この場合、実際原価を計算することは、必ずしも原価を取得価格をもって計算することを意味しないで、予定価格等をもって計算することもできる。また必要ある場合には、製品原価を標準原価をもって計算し、これを財務諸表に提供することもできる。
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3 |
原価計算において、原価を予定価格等又は標準原価をもって計算する場合には、これと原価の実際発生額との差異は、これを財務会計上適正に処理しなければならない。
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4 |
原価計算は、財務会計機構と有機的に結合して行なわれるものとする。このために勘定組織には、原価に関する細分記録を統括する諸勘定を設ける。
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(二) |
原価管理に役立つために、
5 |
原価計算は、経営における管理の権限と責任の委譲を前提とし、作業区分等に基づく部門を管理責任の区分とし、各部門における作業の原価を計算し、各管理区分における原価発生の責任を明らかにさせる。
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6 |
原価計算は、原価要素を、機能別に、また直接費と間接費、固定費と変動費、管理可能費と管理不能費の区分に基づいて、分類し、計算する。
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7 |
原価計算は、原価の標準の設定、指示から原価の報告に至るまでのすべての計算過程を通じて、原価の物量を測定表示することを重点におく。
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8 |
原価の標準は、原価発生の責任を明らかにし、原価能率を判定する尺度として、これを設定する。原価の標準は、過去の実際原価をもってすることができるが、理想的には、標準原価として設定する。
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9 |
原価計算は、原価の実績を、標準と対照比較しうるように計算記録する。
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10 |
原価の標準と実績との差異は、これを分析し、報告する。
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11 |
原価計算は、原価管理の必要性に応じて、重点的、経済的に、かつ、じん速にこれを行なう。
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(三) |
予算とくに費用予算の編成ならびに予算統制に役立つために、
12 |
原価計算は、予算期間において期待されうる条件に基づく予定原価または標準原価を計算して、予算とくに費用予算の編成に資料を提供するとともに、予算と対照比較しうるように原価の実績を計算し、もって予算統制に資料を提供する。
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